やっぱ好きだわ、イタリア『人生、ここにあり!』
★★★★★
シネスイッチ銀座ほか、全国順次ロードショー中
(どんどん上映館が増えていってるようですね。
詳しくはこちら)
原題『SI PUO FARE』(やればできる)のとおり!
何とかなるよ、やってみれば
舞台は1983年の、イタリア・ミラノ。
世界初の精神科病院廃絶法である、通称「バザーリア法」が制定されたものの、
結局、あてもなく、病院付属の組合から出ることのできない元患者たち。
そこに、あまりにも熱血すぎて別の労働組合から追い出されてしまったネッロがやってきます。
自分の居場所をなくしたネッロは、行き場もなく、仕事もなく、
組合の中で、うろうろ、うつろうつろしている元患者たちと同じでした。
そこでネッロは、彼らのそれぞれの個性を生かして、
きちんと報酬がもらえる仕事をさせようとするのですが……。
まず、精神科病院を廃止する、なんて、
夢物語のようにも思えるのですが、本作は実話を基につくられています。
精神科医のバザーリアの努力によって、この法律ができたのが1978年。
元患者たちの予防や治療は、地域の精神保健センターなどが細かくフォローして
地域社会に貢献しながら生活を共にしていくという発想、
それが実際、できているという現実。
恥ずかしながら、イタリアがここまで精神保健・医療・福祉の先進国であることを、
この映画で初めて知りました・・・。
とはいえ、デリケートでディープな題材でも、基本的に明るく、陽気。
楽しく観ることができるコメディなんですよね。
もちろん、それだけではない、悲しく残念な、残酷なできごともあるのですが、
おおむね、楽しい。
このテーマでも、笑える映画をつくれるっていうところにも感服します。
地域社会のために働き、報酬を得る、
ごく当たり前のことで薬の量が減っていく
まず、病院を出ているわけですから、「患者」じゃありませんね。
「元患者」ですね。
ジャーナリスト・大熊一夫さんの著書によれば、「(サービスの)利用者」というようです。
なるほどです。
人にはそれぞれにできること、できないことがある
得意なこと、得意でないことがある
それを個性として、お互いの足りない部分を助け合う、
この映画には共同体として生きていくことのすばらしさが描れています。
夢物語を現実にする「やればできるさ」のパワーが貫かれています。
そして、「誰が」やるのか。
それは利用者(元患者たち)自身にほかならないのです。
ネッロが一番最初に開いた組合の会議(アッセンブリアというそう)を
最後には、彼ら自身が取り仕切る様子は感動的でした。
以前、私の勤めていた事務所では、代表の知り合いの
自閉症の青年が働いていたことがありました。
鉄道大好きで、路線とか列車の型番とかスラスラ出てきます。すごい知識量です。
キーボードも打てます。
私も、名刺のリストとか作ってもらいました。
ちゃんと報酬もありました。
テンぱってるときに話しかけられて、「ごめん!今ちょっと忙しいからね」と
突き放してしまったこともあるのですが、
彼は理解してくれ、「ぼくも、これをやらなきゃ」と言っていたこともありました。
イタリアという国でないと、バザーリア法のような法律は、
実現できないことだったかもしれません。
でも、閉鎖された空間に“閉じ込めて”おくことが必ずしもいいこととは限らない。
もしかしたら、ほんの少しだけ、思いやりや洞察を深めればいいんじゃないだろうか。
もしかしたら、ほんの少しだけ、周りがおおらかになればいいんじゃないだろうか。
ものすごく難しいことかもしれませんけれど、こと日本では。
でも、自分にできることを少しずつやってみる、ということ、そしてそれが
きっと誰かの役に立ち、希望を与えていると実感できることは
元患者たちにとって、けっしてマイナスにはならないだろうと思います。
イタリア人は陽気で、いい加減・・・かもしれないけれど、
そのいい加減さが“いい加減”であり、
ある意味、とてもうらやましい、懐の深い社会なんだろうなと思います。
また、若干ネタバレになりますが、1つ重要なトピックもありました。
男性の組合員を、ECの助成金でその筋の女性たちのところに連れていくんです。
これは実際にあったことのようですが。
その帰りのマイクロバスの様子がすごく印象的なんですよね。
そこに助成金を出すECもECだなと思ったりもするのですが。
そうだよな、当たり前のことだよな、とも思いましたが、
実際、現場ではどうなんでしょう・・・。
ナースとか、もしかして暗黙の了解的な・・・?
泣き寝入りしてしまった方もいるようなのですが、
この点、とても考えさせられます。
とにかく、楽しみながら勉強になる映画でした、本当に。
・人生、ここにあり!@ぴあ映画生活
・Twitterでも時々つぶやいています @uereiy
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「Si può fare」…aka「We Can Do That」2008 イタリア
ネッロに「ニルヴァーナ/1996」のクラウディオ・ビシオ。
サラに「イタリア的、恋愛マニュアル/2005」のアニタ・カプリオーリ。
フルラン医師に「愛と欲望 ミラノの霧の中で/2006」「まなざしの長さをはかって/2007」のジュゼッペ・バッティストン。
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