『未来を生きる君たちへ』許すことをどうか忘れないで
★★★★★
【3/2にDVD発売】
許しとは? 非暴力とは? いのちとは?
親として「観てよかった」と思える1本
重い…。
思ったより、重かったのですが、
約2時間、釘づけになった映画でした。
英題は『IN A BETTER WORLD』ですが、
母国デンマーク語でのタイトルは「復讐」という意味です。
復讐、報復、仕返し、かたき討ち、リベンジ。
類語がたくさんあります。
暴力には暴力を。目には目を、歯には歯を。
でも、子どもたちよ、それでは何も解決しないから、
そうではない、「よりよい世界で」生きてほしいというメッセージなのでしょうか。
物語は、2つの場所で進んでいきます。
アフリカの難民キャンプで働く、国境なき医師団の医師アントン。
キャンプには、患者がひっきりなし。
ときおり“ビッグマン”と呼ばれる残虐者にお腹を裂かれた妊婦も運ばれてきます。
そんな中でも、いのちを救うべく働くアントンを
いつも誇りに思っている、彼の息子のエリアス。
父とは離れてデンマークに住み、学校ではいじめられています。
その学校へ、母親をがんで亡くしたばかりのクリスチャンが転校してきます。
クリスチャンは、母の闘病や死を通して、
父に対してわだかまりを抱えていました。
また、エリアスも、いじめのことは
遠くアフリカの地で身を削って働く父には
なかなか言い出せずにいます。
父と母は別居中でもあるし。
どこか、似通っているこの2人。
エリアスをいじめていた相手をクリスチャンが殴り倒し
ナイフで脅したことから、ほどなく、2人は友達になるのですが・・・。
この映画を観て、まず浮かんだのは、
息子の幼稚園時代のベテラン園長先生のおことばでした。
年少くらいのときに一度、
同級生にいろいろとちょっかいを出されたことがあって、
その園長先生にご相談したのですが、
「やり返さないと、何度でもやられますよ。1度、がつんとやり返してみたら」と
言われたことがありました。
えっ、先生!“クリスチャン”ではなかったですか!? と思ったのですが、
うちの子は大人しいほうだったので
「この子には何をやっても大丈夫だ」と思われないようにするために、
という本意があってのお言葉だったのです。
そのことを思い出しながら、観ていました。
そして、今思うのは、
ちょっと話が飛んでしまいますが
国立ハンセン病資料館の語り部である
ハンセン病体験者の平沢さんという方が、ある講演で言われていた、
「けしからん!」では、前に進めない という言葉です。
ハンセン病の歴史には、知れば知るほどに憤りを感じます。
何で、そんなことを。本当のことはわかりきっているのに!
と思わずにはいられません。
(それとはまったく真逆のアプローチで、国を挙げての「安全神話」がいわれる昨今ですが。)
どんなにけしからん! でも、相手を許す。
どんな相手にも、いのちと、その尊厳があるのだということ。
その言葉を思い出し、
だから、暴力の連鎖は何も生まないということ、なのだろうか、と思ったのです。
そういうキリのない報復の連鎖によって、
戦争が始まってしまうこともあります。
戦争ほど、数え切れない不毛な死を生み出すものはありません。
復讐することと、許すこと。
善と悪。
愛することと、憎むこと。
生と死。
いのちがあるということ、いのちを失うということ。
やはり子どもには、親でも、身近な大人でも、誰かが、
いのちというもの、生と死というものを
きちっと伝えてあげなければならないタイミングがあるんだとあらためて思います。
特に親たる者、いのちについて子どもと語ることを、避けたり、逃げたりしないようにしようと思いました。
本当に、心の奥まで深く染み、残る、珠玉のデンマーク映画です。
アカデミー賞と、ゴールデン・グローブ賞の最優秀外国語映画賞のW受賞も納得です。
・Twitterでも時々つぶやいています @uereiy
・試写会や来日記者会見の感想もちらほら。
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