家族よ、もっと死生観を語れ『エンディング ノート』
新宿ピカデリーほか、全国ロードショー
★★★★★
自分のため、家族のためのエンディング。
見事に終活、完了です
観て、本当によかったと思えるドキュメンタリーでした。
実の娘が末期がんの父親との闘病生活を追うのではなく、
がんを抱えながら、
人生のエンディングに向かう父親をただ追っています。
エンディングノートは、近頃はやりで、
文字通り、人生を終える時のためのノート。
遺言のような法的な拘束力はなく、家族に伝えておきたいこと、
自分がやり残したこと、葬儀の希望や招待する人
などを記しておくものだそう。
パソコンに向かってエンディングノートを綴るお父さんを見て、
ああ、本当「終活」中だなあと思いました。
高度経済成長を支えた、会社命、段取り命の営業一筋のサラリーマン、
監督のお父さんである、砂田知昭さん。
かぶる、大腸がんで逝ったおじとモロかぶりです。年も近い、団塊世代。
娘である監督は『奇跡』『歩いても歩いても』『誰も知らない』など是枝裕和監督の
助監督を務めていた砂田麻美さん。
ずいぶんと前から、お父さんのことを撮りためていたらしく、
今回、こういうことになって、
膨大なテープをあらためて紡ぎ合わせたようで、
お父さんへの愛と感謝にあふれたつくりになっています。
いや、本当に、
末期がんのお父さんを見ながら、こんなにも笑ってしまうなんて。
もちろん泣かされもしますけれど、
ときに、家族内の真剣なやりとりって、
端から見たら、ものすごく滑稽なところがあると思うのですが、
そういう部分がとてもうまく生かされているのです。
あともう数時間ほどの臨終の床にありながら、「わかんなくなったら、携帯ください」。
ニンジンジュースを勧めるお姉ちゃんとか、わかる、わかる。そう、そう。
また、段取り命のDNAがしっかり息子に受け継がれているところなどは、
リアルに文字通りに笑い泣きです。
もうだめだ、涙があふれ出ると思った瞬間に
はじけ飛んで出てきた、笑い。
そんな映画って、観たことあります?
しかも、これは会場中、だれもがそんな感じのようでした。
日頃、私は、健康な人も、医療者も、患者も、その家族も
もっと死生観についてオープンに語ってもいい、と考えておりますので、
生きていくことと同様に、死にゆくこともまた尊いものである、
という監督のメッセージには共感します。
死は、生の鏡のようなもの。
死にざまは、生きざま。
アルフォンス・デーケン先生のいう、「死の準備教育」の教材とかにも
なり得るんじゃないかなとも思ったりします。
だって、段取り命のお父さんの、自分のエンディングを自ら段取りたい、という意思、
それをご家族も尊重していたこと、
そして、何よりお父さん自身が、そのためにとても主体的な患者だったこと
これは、とても大事なことではないかと思います。
そうやって逝く側も、送る側も納得いく形でエンディングを迎えられて初めて、
残った側は次に進める、その先の未来へ目を向けられるのではないかな、とも思います。
病室にお孫さんを呼んだところもよかったですね。
たぶん、一番上の子はなんとなくジイジのことは覚えているかもしれません。
たぶん、あの子はあの年にして死というものを実感したかもしれません。
あの子の行く末は、きっと安泰です。
本当、いい家族でした。
↓笑って泣ける!?がんの映画、おすすめ。
50/50(フィフティ・フィフティ)
12/1(木)公開!
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ヤマさま
コメントありがとうございました!すっかり遅くなってしまって、すみませんm(_ _)m
ご掲載、光栄に思います!ありがとうございます。最期だからこそ患者自らが主体的になる、ということを考えさせられる、本当に良質のドキュメンタリーだと思います。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: uerei | 2012年8月22日 (水) 14時31分
uereiさん、こんにちは。
こちらに書き込むのは初めてだと思うのですが、
私も映画日誌をサイトアップしていて、こちらの頁をトラックバックのような形で
拙日誌から紹介させていただいたので、報告とお礼に参上しました。
>もうだめだ、涙があふれ出ると思った瞬間に
>はじけ飛んで出てきた、笑い。
とお書きのこの呼吸、確かに「そんな映画って、観たことあります?」の見事さで、
映画って編集だなぁと改めて感じさせられる作品でしたね。
こちらにお書きのように、死に至る病においても、
患者本人が主体的であり続けることの意味と力について、
改めて考えさせてくれる、驚きの作品だったように思います。
いきなりで、拙日誌への掲載が不本意なら、ご連絡ください。はずすように致します。
先ずは報告とお礼に参上した次第です。どうもありがとうございました。
投稿: ヤマ | 2012年8月10日 (金) 07時00分
響さん、コメントありがとうございました。
本当に砂田監督には才能を感じますね。この傑作の次、にもぜひ期待したいです。
投稿: uerei | 2011年11月 3日 (木) 16時01分
泣き笑いのドキュメンタリーは砂田さんならでは。
どこか涙あり、どこか笑いあり、とにかく心深くに残る、
珠玉のドキュメンタリーでした。
それにしても立派な親孝行でした、ということなんだそうです。
http://www.birthday-energy.co.jp/
「恐ろしく現実的なので、ドキュメンタリーに活路」を
見い出した、という記事が結構気になりましたね。
最近は優秀なドキュメンタリーが少ない気がしますし、
がんばってほしい。
投稿: 響 | 2011年10月16日 (日) 18時22分