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2011年11月17日 (木)

『ラビット・ホール』悲しみとの付き合い方

Photo


ラビット・ホール


★★★★4.5


<悲しみはいやされる>なんて、まやかし?
どこかに抱えながら、それでも生きていく

ニコール・キッドマンが製作にも名乗りをあげたこの作品、

交通事故で息子を失い、夫との関係もぎくしゃくしていた

ベッカが、わが子の命を奪った当事者の少年との交流を通じて

喪失の悲しみと真摯に向き合っていく物語です。


ニコールは、本年度アカデミー主演女優賞にノミネートされていました。


もともとはピューリッツァー賞受賞の戯曲が原作だそうで、
ブロードウェーの舞台版では、『SATC』のミランダことシンシア・ニクソンが
この役を演じていたとか。

そちらの舞台バージョンも1度、観てみたい気がします。


共演は、夫ハウイー役に『サンキュー・スモーキング』
『ダークナイト』

アーロン・エッカート、
ベッカの母親役に『ハンナとその姉妹』
のダイアン・ウィースト。

この2人も、とても良かった。

すばらしい配役だったと思います。

そして、大好きな海外ドラマ、『グレイズ・アナトミー』に出演中、
(もはや他人とは思えない?クリスティーナ・ヤンこと)サンドラ・オー。

存在感がありました。いい女優さんだ、本当に。

彼女は、ベッカと同じように、子どもを失った両親が悲しみを語り合う

グリーフワークの会に通っているメンバーの役でした。


グリーフワークとは、

大切な人を亡くすなどの喪失を体験した後のグリーフ(深い悲しみ、悲嘆)を

いやす作業のことです。

死生学で有名なアルフォンス・デーケン先生は、「喪の仕事」ともおっしゃっています。

会の名称などは特に出てきませんでしたけれども、

こうした取り組みがあるのは、本当いいことだなと思います。


ただ、その場で何かしら気持ちを昇華できたなら、それでいいんだと思いますが、

ベッカのように、こうした会や、夫婦の対話自体にも、

そして、夫が亡き息子との思い出のビデオをひそかに観ていることにも、

息子と暮らし、目の前で亡くした家に住み続けることにも、


何の意味も見いだせなくなる場合もあるのですね・・・。


それは、とても苦痛で、きついことだと思います。


ベッカ本人にとっても、夫のハウイーにとっても。



<以下、ネタバレあり>

その悲しみは消えないけれど、
いつかきっと耐えられるようになる

ベッカと、そしてハウイーの苦悩の日々は、淡々と、静かに描かれていきますが、

時折、グッと胸をつかまれるような場面があり、

そのたびに、感情が揺さぶられます。

ベッカが本当に寸でのところで、何とか踏みとどまっているのが分かります。

「悲しみはいつか消えるの?」

という彼女の問いに対して、母親は「ノー」と答えます。

実は、ベッカの兄も11年前に薬物中毒のために亡くなっていたので、

母親もまた、子どもを亡くした悲しみを知る体験者だったのですね。


大切な人を亡くしたときの深い、深い悲しみは、

いつかきっと乗り越えられる日が来る、

やがて、いやされる時が来ると、私たちは思ってしまいがちですが、


改めて、ベッカのグリーフワークの過程を見ていて


喪失の悲しみというのは、乗り越えるとか、消し去るたぐいのものではない

ということに改めて気づかされます。

たぶんきっと、

最初は、身動きの取れないくらい大きな岩のような悲しみだったとしても、

毎日を生きて、少しずつ、少しずついろいろな出来事が重なっていくうちに、

少しずつ、少しずつ変化していくものなんだろうと思うんです。


やがて、いずれは小さな石ぐらいの大きさになって

いつでも、そっとポケットの奥に仕舞っているような感じになる。

長い時間がかかるかもしれないけれど、だからこそ

悲しみに耐え得ることができるようになるんだと思います。


また、もしかしたら、

ラスト近くのニコールの慟哭に今ひとつ共感できないというか、

なぜこのタイミング?と、取り残されたような感覚を受ける方もいるかもしれません。


文字どおり、堰(せき)を切ったようにあふれ出る

ベッカの感情と涙。


しかし、その後、少年とまた出会ったことで、

少年が一生懸命描いていたコミックの話から

パラレルワールド(別世界)について

思いをめぐらせることで、彼女の中で何かが変わっていきます。


このとき確かに、彼女の悲しみの岩は、前より少しだけ

その大きさを小さくしたことでしょう。


その瞬間というのが、

その人なりに腑に落ちる瞬間というのが、

いずれ来るんだと思うんです・・・。


ベッカにとっては、それが少年の卒業の日のあの時だったんですね。


大切な人を失うと、


心の中が空洞になって、何も言葉が浮かばなくて。


ただ何かに没頭して忘れていたくて。


きっともう楽しいことなんてない、もう2度とご飯をおいしいとは思えなくなります。


そんな気持ちになることがあったとしても、


いずれは、何とか

悲しみに折り合いつけて

やっていくことができるようになる。

ドラマティックな展開はなく、最後に

夫婦の完全和解、晴れてハッピーエンド、とは決してなりませんが

寄り添って、共に生きていく。そんな救いを思わせるラストシーンでした。


私自身も、エンドロールも最後のほうになって、

自分の中にしまい続けていた小石ほどの大きさになった物を、
取り出すことになってしまって、涙が出ました。

久しぶりの感情でした。「再会」に近い感覚です。


いつからか私も「この感情は一生付き合っていくものなんだ」と
思えるようになっていたんですよね。

今は笑うことができるし、ご飯もおいしい。

楽しいと思えることがたくさんあります。

でも、経験した悲しみは、どこかへ消え去ってしまったわけではなくて

いつでもこの自分の中にあって

時々、ふと思い出したように取り出すことができる。

ずっと持ち続けているのが、ふつうになっている。


とても観たかった作品でしたが、

試写会のご案内をいただいたのに、
なかなか都合がつかず、いつのまにか公開日となってしまって。

実際、ちょっと観るのが怖いという気持ちもあったんですが

でも、やはり観てよかった1本となりました。


いずれ、きっと、思い出したように、時おり観たくなるかもしれません。

監督はジョン・キャメロン・ミッチェル。こちらもまた喪失の物語でもある!?


ラビット・ホール@ぴあ映画生活
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