『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』存在に、人は救われる
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9.11で最愛の父親を失った少年の、
ちょっぴり変わった“グリーフワーク”を描く
ものすごくうるさくて、
ありえないほど近い
Extremely loud
and Incredibly close
なんちゅうタイトルだと最初は思ったのですが、映画を観て、
原題そのまんまをうまく翻訳しているんだと思ったら、しっくり来ました。
これはヤバイです。
すばらしい映画です。
愛する人を失ったつらさ。
喪失との折り合いのつけかた。
主人公の少年の成長。
家族の愛。
この映画から、たくさんのことを受け取りました。
震災以後の私たちのこころに、確実に何かを残してくれると思います。
あの少年は何なんですか、いったい。
主人公のオスカーを演じた彼、トーマス・ホーンくん。
クイズ番組のチャンピオンになった彼を、監督がスカウトしたらしいんですが、
めちゃくちゃ頭がいいうえに
とても初めての演技とは思えないのです。
そのオスカー少年、
自分の好きなことに没頭する。
感覚が鋭敏。
自分なりのルールや基準を遵守する。
幾何学的な発想が豊かで、知能は高い。
相手の反応はおかまいなしに話し続ける。
うーん、やはりアスペルガー症候群などの広汎性発達障害ぽい感じを受けますが、
診断は不確定。
その辺りがあいまいなのは、
もしかしたら、オスカーが自分の殻に閉じこもらないように
ユーモアたっぷりに育ててくれた
父親(トム・ハンクス)との関係が影響していたのかもしれません。
そんなオスカーに、
この最悪な出来事をどうやって説明してあげたらいいのでしょう?
からっぽの棺でお葬式なんて、意味がない、と彼は考えています。
そうかといえば、父親からの留守電を何度も聞き直し、何かを確認するかのようでもあります。
理解できないことがたくさんあったからこそ、
大好きだった父が遺してくれた鍵と
「ブラック」と書かれた封筒を手に、
ニューヨーク中を駆け回って、ニューヨーク中のブラックさんを訪ね回って
とりわけ多くの、時間と手間が彼には必要だったんだと思うのです、たぶん。
独特な感性を持つ彼だからこそ、ちょっと遠回りをしなければならなかったけれど、
それはどうしても必要な遠回りでした。
そして、オスカーの喪の「語り」に、
耳を傾ける、言葉を話せない間借り人(マックス・フォン・シドー)。
無言でも、ただ寄り添う。
付き合う。
受け入れる。
彼の存在の意味は、すぐにピンとはくるのですが、
同じ大きな喪失の体験者であることも、だんだん分かってきます。
私自身が子どものころに経験した喪失感と向き合うとき、
なぜ、私の親は何もしてくれなかったんだろうと、そればかり考えていた時期がありましたが、
でも、今なら分かります。
彼ら自身も、喪失の悲しみや苦悩を自分自身で何とかすることが
精いっぱいだったんだと、今になってしまえば理解することができます。
それがあまりにも突然であれば、余計に。
しかし、オスカーの母親(サンドラ・ブロック)は、彼の行動を受け入れて、
共にグリーフワーク(喪の作業)を進めることを選んでいきます。
これはとても勇気のいることだと思うし、
その母親の愛にも、涙が止まりませんでした。
映画を観ながら、これほど激しく感情が揺れ動かされ、
胸が苦しくて苦しくてたまらなくなったのは
同じニューヨークが舞台の『プレシャス』以来かもしれません…。
でも、ただ悲しいばかりではないんです。
温かい涙も存分に流させてくれるのが、この映画のすごいところなのです。
最後に、
この映画とは、まったく関係ないようでいて、ちょっぴり関係あるかもしれないことについて、
“いのちの尊厳”について考えてみました。
3.11を経験した国、未曽有の原発事故がまだまだ続いている国、
自殺者3万人という国において
生と死ということ、いのちということ
生死の教育というか、いのちの授業というか、
あるいは、喪失と向き合うことを教える教育がそろそろあってもいいんじゃないかなと。
虐待の数が、昨年は過去最高だったそうですが、
そういうものこそ、今の日本には必要なのではないかと思ったりしました。
↓スティーブン・ダルドリー監督が見つけてくる少年は、まず、まちがいない!
↓エリック・ロスの脚本&トム・ハンクスも、まず、まちがいない!
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−監督−
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−原作−
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−出演−
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