『マーガレットサッチャー 鉄の女の涙』の理由(わけ)
★★★★4.2
単なる伝記映画じゃない。
普遍的な“老い”を描いた物語
現在86歳、認知症が公表されている元英国首相マーガレット・サッチャーを、
アメリカを代表する名女優メリル・ストリープが演じた人間ドラマです。
彼女は、ご存じのとおり
昨年、『英国王のスピーチ』で吃音症だったジョージ6世を演じ
アカデミー賞主演男優賞に輝いたコリン・ファースから
「『マンマ・ミーヤ!』での共演、楽しかったよね〜」と振られながら
見事、3度目の同賞主演女優賞を獲得しています。
来日時には記者会見にもおじゃましまして、
とても気さくで、ユーモアがあり、
丁寧に言葉を選んで話す様子に
「さすが、メリル━━━━(゚∀゚)━━━━!!」と感銘を受けたばかり。
改めてメリル・ストリープのすごさ、大きさを実感している今日このごろです。
それで、映画のほうはといいますと、
認知症により、とぎれとぎれになってしまった
彼女の記憶からなる過去の回想と
がんで先に他界した夫デニスが現れる幻想の世界、
そして、時折、正気にふと戻る現実が、混在して描かれていきます。
スカッとはしません。笑顔にもなりません。
私は全編にわたり、ただ、ただ、胸が締めつけられるような、せつない気持ちになっていました。
誰であっても、たとえ鉄の女であっても、
“人は老いる”という、儚さを感じていました…。
物心ついたころから、英国初の女性首相であり、「鉄の女」であり、
新自由主義、小さな政府を目指し、
フォークランド紛争で国民の支持を得たものの、
失業者を増やし、格差を拡大させたり、
イギリスの医療制度NHSを改革(改悪?)した、自由診療を持ち込んだ
という印象がありますが、
政治家として何をしたかは、今は、まあ置いといて、
いくら強く賢き、闘う女性であっても、
やがて人は老いていくのだ
子どもたちは巣立ち、
やがては伴侶を失っていくのだ…ということを痛感させられました。
終盤からラストにかけてのシーン、すごかった!
メリル、本当に“恍惚の人”のようでした。
また、来日記者会見で思い出される、
「サッチャーは決してフェミニンさを捨てていたわけではなかったんです。
ハンドバッグや華やかなブラウスを好んで身につけていました。
ただ、女の弱みともいえる涙や笑顔を封印しただけ。
だからこそ、鉄の女と呼ばれたんだと思います」
というメリルの言葉も、1つ物語っています。
涙や笑顔は、女性の弱さでもあると同時に、
使いようによっては「武器」にもなったはずなのですが、
彼女はそれらをあえて封印していました。
「毎日毎日、闘わなかった日など1度もない」のに
武器としては使わなかったんですね。
そうした彼女の闘う“外の顔”を支えていたのは、
夫のデニスのユーモアや、
2人の何気ない語らいであったことも描かれていて、
その点もまたせつないものがあるわけです。
そのデニス役といえば、
アルツハイマー病で亡くなった英国の作家アイリス・マードックを描いた『アイリス』でも
夫を演じていたジム・ブロードベント、
その彼だったのもまた、くるものがありました。
もう見るからに柔和な感じで。
ハリポタ世代には、スラグホーン先生としてのほうが有名ですかね。
実際の彼女はどうであれ、
人は必ず老いていくこと、
伴侶とも子どもとも、いつか別れがくること、
称賛や(軽蔑や怒り)、築いた功績や(失敗)、財産は
いずれ過去のものとなること、
この現実だけは、いくら「鉄の女」であっても抗うことなどできない
ということを、今一度、思い知らされる映画であると思います。
最後に、彼女が発した印象的な言葉を。
「考えが言葉になり、言葉が行動になる。
行動は習慣に、習慣は人格に、人格は運命になる。
だから、何を考えるかが大事なのだ」
しかと、心に受け止めたいと思います。
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メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント出演
フィリダ・ロイド監督、
105分、2012年3月16日公開
2011,イギリス,ギャガ
(原題:The Iron Lady )
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