『聴こえてる、ふりをしただけ』子どもだって精いっぱい悲しい
★★★★
11歳の少女がたどる
喪失感の昇華と再生への道すじ
ものすっごく難しい、命題を投げかけられてる気がしました。
私たち、大人に対して。
主人公は、突然の事故で母親を亡くした11歳、小学5年生のサチ。
「お母さんは魂になって、サッちゃんのことを見守ってくれている」
周りの大人たちはそう言いますが、サチはイマイチ納得ができません。
学校でも、クラスメートとの間に何となくの異質感が生まれたことを感じていたところへ、
お化けという目に見えないものの存在を信じ、
真剣に怖がる転校生・のんちゃんがやってきます。
のんちゃんは、「ひまわり学級」と呼ばれる
特別支援学級にも通っている、おそらく何らかの発達障がいを持っている子でした。
「お化けが怖くて」1人ではトイレに行けない
のんちゃんに、サチは興味を持ち始めます。。。
子どもの心の素直さ、柔軟さ、そして残酷さをよく知る監督だな、と思います。
2児の母親であり、現役の精神科の看護師。
小児科での経験もおありという、今泉かおり監督です。
パートナーは『こっぴどい猫』の今泉力哉監督。
ご夫婦そろって、映画監督なのです。
育休中に撮影したという本作は、今年2月、第62回ベルリン国際映画祭で
13歳以下の子どもたちが審査員を務める「ジェネレーションKプラス部門」にて
子ども審査員特別賞を受賞しています。
やはり11歳、小学5年生というお年ごろが、絶妙なんです。
このころって
子ども扱いされるのが少しずつ嫌になってきます。
母親、父親、先生、周りの大人の言うことに時々納得できなくて、
ムカついたり、冷めた目で見たりすることが増えてきます。
自分の考えが、時には仲のいい友だちとも異なることもあると、自分で気づけるようになります。
ただ、友だちや大人の考えに「それって違うんじゃ⁈」と思っても、
うまくそこを伝える術をまだ持っていなかったりします。
だから、余計にちょっとイライラします。
誰かにちょっと意地悪したくなります。
でも、まだ1人では何もできなくて
誰かの手を借りなければ、
生きていけない存在だというのはわかっています。
サンタを信じている子と、どうやら違うらしいと勘づいている子とが出てきます。
♫お化けなんてないさ、お化けなんてウソさ。
と普段なら思っていても、真夜中に1人で、何かを期待して待ったりします。
心のどこかに「だけどちょっと、だけどちょっと…」という気持ちが、確実にあるのです。
「お母さんは、魂になって見守ってくれる」という大人の言葉を信じたいけれど、
信じ切れません。
だって、魂って何よ⁈
見守るってどうやって⁈ お母さんはもう、姿かたちもないのに…。
ふと気づけば、ほこりのたまっている、お母さんの座っていた食卓のいす。
そこに掛け放しのエプロン。
カーテンの下にも、まるまった綿ぼこり。
お父さんやおばさんでは気づかない、
そうしたほんのささいなことが、お母さんの不在を、如実に物語っていきます。
サチはそうしたことを自分なりに、1人で感じて、
のんちゃんという稀有な存在と、異質な自分を通して
1人で、悟っていくのだと思います。
腑に落としていく、というか。
サチが悟っていくとき、腑に落ちていくときのシーンで思うのですが、
人って、涙があふれ出てくるまで感情が高ぶっている間は、歩くことさえできなくなるんですね。
立ち止まってしまうんです。動いていられない。
だけど、いったん涙があふれ出てしまえば
また歩き出せるんですよ。
不思議なものです。
長回しのこのシーン。
象徴的で、印象的で、好きです。
ところが!
一方、伴侶を亡くしたパパはどうでしょう。
慎ましく、清潔で、花のある暮らしをしてきた中で、
大切な連れ合いを亡くした大の大人はどうでしょう?
その心持ちを打ち明けたり、さらけ出したりできる
関係性のある人がなく、フォローもなく、その居場所もなかったパパは……。
これがとても現代的な命題だと思うんです。
グリーフワークは、家族といえども、とても個人的なものではあろうと思います。
サチは幸い、自分で気づくことができた。
先に、1人だけ“大人”になることができたんですね、きっと。
サチには学校という場があって、友だちがいたからこそ、よかったのかもしれません。
子どものグリーフワークを考えるのに
『ぼくたちのムッシュ・ラザール』もおすすめです。
・Twitterでも時々つぶやいています @uereiy twilog
・試写会や来日記者会見の感想もちらほら。
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Healing & Holistic 映画生活
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監督: 今泉かおり
出演: 野中はな 、郷田芽瑠 、杉木隆幸 、越中亜希 、矢島康美 、唐戸優香里
試写会場: 京橋テアトル試写室
公式サイトはこちら。(2011年8月11日公開)
webDICEさんからのご招待で行って来ました。 いつもありがとうございます。
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