意外とまじめな『ヒステリア』、自己を解放せよ。
★★★★☆
心を解放して生きることを
目標としています
Twitterのタイムラインで、“意外と”好評だったのと、
いま、何かと話題の女性の社会進出や自立という、
裏テーマ(?)があるということで観てきました。
そしたらうわさどおり、ホントにおもしろかったです!
広めの劇場でしたが、数組の女性2人連れやお1人で来ている方にまざって
男性の方もちらほら。そうですね、男性も観といたほうがいいと思います。
この映画は、予告編でも“大人のおもちゃ”といいますか、
“ラブグッズ”といいますか、その仰天誕生実話を描いているので、
遠慮がちになってしまう人がいるかもしれませんが、
それだけじゃないんです。
マギー・ギレンホールが演じたシャーロットという女性が
あの時代にさっそうと自転車でやってくるのがカッコよくて、
日々、地域でやっていることもカッコよくて、
ハマリ役でした。
また、例の道具を開発する実在の医師を演じた
ヒュー・ダンシーの生真面目っぷりも好き。
この2人のさわやかさや知性が役柄に合っていて
脇役の方々も利いていて、
テーマの赤面部分を薄めてくれて、
笑いもあって
なおかつ、じぃんと感動させるポイントもある、上質のロマンティックコメディに仕上がっていましたので、
楽しく観ることができました。
舞台は19世紀のロンドン。
第2次産業革命のまっただ中であり、
科学が人を救うという夢に満ち、
近代医学の黎明期でもあったんです。
発表されたばかりの革新的な細菌学をいち早く勉強している
真面目な医師モーティマー・グランビル(ヒュー・ダンシー)。
ある病院で、汚れた包帯は外傷によくない、という今では常識過ぎる
意見を述べたために、職を失ってしまいます。
世は、医師が自分の名を冠した“Dr.○○の薬”が、
売れればそれでオーケー、という時代でした。
そこで、モーティマーが門をたたいたのは、
待合室が上流階級のご婦人たちであふれる産婦人科
ダリンプル医師(ジョナサン・プライス)の診療所でした。
当時、女性たちの間で深刻な問題となっていたのは“ヒステリー”。
子宮の過活動が原因で、
すぐに泣いたり、不感症になったり、うつ気味になったりする
女性特有の「病気」とされていました。
ダリンプル医師はその“治療”をしており、
モーティマーも、手伝うことになります・・・。
まあホルモンがそれなりに出るでしょうから、
自律神経が整ってきて、そりゃ体調も気分もよくなるでしょう、
とは思うのですが、
やってる本人、大まじめ、というのがおもしろいんですね。
ちゃんとその前にジャケットをはおり直したりなんかして。
マギー演じるシャーロットは、このダリンプルの娘なのですが
爆竹のような勢いのある、短気で不安定な娘を
「ヒステリーだ」と言ってしまう父親なんです。
シャーロットも、シャーロットで、
彼らがやっていることは、うわべだけの“治療”にすぎず、
その背後にある問題に気づいていないと主張しています。
それにしても、過度のヒステリーの治療は子宮摘出しかないなんて、
にわかには信じられませんよね。
そのころ、まさにフロイトが、ヒステリーは幼児期の性的トラウマなどが原因だということを研究していたころだそうですが、
(キーラ・ナイトレイがなぜか浮かび…)
女性特有の不安定さは、ホルモンバランスなどの関係があるにせよ、
本当「ひどい言われようだな」と思うわけです。
この映画も女性の“性の解放”を描いているといいますが、
劇中、シャーロットは「そんなの上流階級のマダムだけよ」なんて言うわけです。「労働者は食べていくことで精いっぱいだ」と。
そもそも性的抑圧に苦しんでいた、ということもさりながら、
心をときめかせる出来事に触れる機会を、与えられなかったことも大きいと思います。
あるいは、そんな余裕すらなかった。
毎日が同じことの繰り返しで、性の面だけではなくて、さまざまなことにおいて
毎日が同じことの繰り返しで、性の面だけではなくて、さまざまなことにおいて
「自分らしさの主張ができなかった」からこその“ヒステリー”。
この部分をもう少し突っ込んで描いてほしかったかな
と思う反面、
そうすると、この映画が持っている軽妙さが損なわれてしまうかもしれないので、これでほどよいバランスなんでしょうか。
監督自身も、「この映画はロマンティックコメディであり
女性の社会進出を描きたかったわけではなく、
結果としてそうなっただけ」と語っていますが、
自立や社会進出というのは、
女性として、というよりもむしろ
1人の人間として、尊厳を取り戻して、自分として生きていくということなんじゃないでしょうか。
シャーロットが、体を売る仕事をしていたモリー(シェリダン・スミス)に仕事をやめさせ、
自宅のメイドとして働いてもらうことにしたのは、その一歩なのでは。
1人の人間として尊厳を認められた上で生きていけるのなら、
自分次第で、毎日は、まわりの世界は大きく変化していく。
結果、そういうふうに生きている人は、どこか人を引きつけるものがある。
もしかしたら、カップルで観ると、その価値観や、人生観の違いを浮き彫りにさせて
喧喧ごうごうになってしまう恐れもありますが、
お互いの違いがわかって、かえって(?)いいかもです。
また、ナースなどの医療関係者にとっても、たいへん興味深く観ることができるかと思います。
余談ですが、この宣伝プランでよかったのかな、というふうに思ったりしますね、この作品も。
ヴィクトリア時代に明るい歴史学者や女性問題の研究者などのコメがあってもよかったかもしれない。それとも断られてしまったのか…。
今年はそういうのが多いように思います。
↓ヒュー・ダンシーを見つけた『いつか眠りにつく前に』。
彼が演じた、あの弟くんのことは忘れられません。
↓マギー・ギレンホールを見つけた『モナリザ・スマイル』は
ちょっとテーマが似てるかも。
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